【提言】自動運転だからと言って治外法権的な刑事免責制度を設けるべきではない

サイト更新情報2023年12月25日「AI時代おける自動運転車の社会的ルールの在り方検討会・サブワーキンググループの会議が始まる」で述べましたが、政府は令和5年10月11日、デジタル行財政改革の第1回会議を開催し、同改革会議の議論を踏まえて、自動運転レベル4乃至5の実現に向けて、どのように法を整備し、ルールを定めるかについての検討会を立ち上げました。
その検討会の「サブワーキンググループ」第3回会合が2024年2月27日に行われましたので、同会議で私が提言した要旨を報告致します。

レベル4は、一定の地域に限り、レベル5は地域を限定せずどこでも運転者がいない完全自動運転を実装するものです。
その完成まで多くの困難が予想されますが、完成すれば交通事故は劇的に低減しますので、一日も早い実現が望まれます。
そのため、業界からは、たとえプログラムに問題があってこれが原因となって事故が起きても、プログラムを設計した人、そのプログラムに基づいて自動運転車両を製造したメーカーや技術開発担当者個人に対しては、業務上過失致死傷罪などについて、責任を一切負わせない刑事免責制度を認めるべきであるとの声が上がっています。
そうでなければメーカーの開発意欲が失われ、自動運転の実装が難しいという理由からです。

しかし、それは、交通犯罪の被害者やその遺族からすれば到底、受け入れられる制度でありません。
自動運転化がかなり進んでいる航空業界、あるいは僅かなミスがあっても人の命に直結する医療の分野ですら、ミスがあれば責任者は業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問われる可能性があるのに、どうして自動車メーカーだけには一種の治外法権のような恩恵を与えるのか、国民の理解を得ることは無理です。
また、一律の刑事免責制度は、起訴されず刑事裁判が開かれないというのですから、被害者に刑事裁判への参加を権利として保障した犯罪被害者等基本法・刑事訴訟法316条の33以下の規定を無意味にする恐れがあり、ひいては裁判を受ける権利を保障した憲法32条の趣旨をも損ねるものです。

そもそも、メーカーの開発意欲は、刑事免責制度という一種、治外法権のような制度で確保するのではなく、事故原因と機序については、自動運転に特化した専門的な事故調委員会を設け、そこでの判断を司法(検察と裁判所)が事実上、尊重するというような仕組みを構築することで確保すべきです。
というのは、科学分野において、科学者、医者、交通工学者などが「不当」な起訴を受けたり有罪判決を受けたりするのは、検察官や裁判官の理系の知識不足に起因していることが大半を占めているからです。
専門的な事故調査委員会が科学的な見地から事故原因を客観的に究明するのであれば、知識不足による不当な起訴・裁判はなくなると思います。

その調査の結果を踏まえて、司法機関(検察と裁判所)が、予見可能性、予見義務違反、結果回避可能性、結果回避義務違反の過失や因果関係などの法律レベルの判断を専権的に行使するのが、バランスの取れた制度設計ではないでしょうか。

いくら開発意欲を確保するとは言え、自動車メーカーだけ治外法権的な特別扱いをされるというのでは、国民の理解は到底、得られません。