危険運転致死傷罪のあり方を議論する法務省有識者検討会へのヒヤリング

関東交通犯罪遺族の会(通称:あいの会)の代表顧問弁護士として、危険運転致死傷罪のあり方を議論する法務省有識者検討会において意見を述べました。
意見の要旨は以下の通りです。

飲酒酩酊の加重類型を設けてください

現在、危険運転致死傷罪には、8類型が掲げられています。
しかし、残念なことに、ある一つの事故が、同時に複数の類型に該当する場合であっても、量刑が、当然に、より一層、重くなるわけではありません。

しかし、飲酒酩酊状態となれば、人は、どのような気持ちになるでしょうか。多くの場合、気持ちが大きくなったり、細かいことが気にならなくなったりします。つまり、飲酒酩酊することで、安易に、制御困難な高速度を出したり、安易に幅寄せ・直前進入・直前停止をしてみたり、安易に赤信号を無視したり、安易に逆走したりすることは、一般的に良く見られる犯罪類型ではないでしょうか。

例えば、刑法は、人を殺して強盗をすることが一般的に見られる犯罪類型であることから、刑が5年から20年の強盗罪と、刑が5年から死刑までの殺人罪を結合させて、刑が無期又は死刑という非常に重い「強盗殺人罪」という犯罪を定めています。

これと同じように、自動車運転死傷行為等処罰法2条1号で言うところの飲酒酩酊の危険運転行為をして、法2条2号から8号までのいずれかの行為をしたときは、それらを結合させた新たな犯罪類型を設け、法定刑を、現行の1年以上20年以下から、5年以上無期懲役まで引き上げて頂きたいというのが要望の第一です。

パーキンソンの症状が現れる疾患を、政令で、「自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある疾患」に加えてください

自動車運転死傷行為等処罰法の施行令によりますと、自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある疾患として、
① 統合失調症
② てんかん
③ 低血糖症
④ 躁鬱病
⑤ 再発性の失神
⑥ 睡眠障害
の6疾患を掲げています。

しかし、これにパーキンソンの症状が現れる疾患、具体的には、パーキンソン病とパーキンソン症候群ですが、これらを加えて欲しいというのが第二の要望です。

5年前に東池袋でこんな事故が起きました。アクセルとブレーキペダルを踏み間違えて車が暴走し、多くの人を轢きながら最後に母親と幼い子供を死亡させた事故です。
加害運転者は、かなりの高齢者で、いわゆるパーキンソン症候群を発症している強い疑いがありました。
パーキンソンの症状には、①手が震える、②表情がなくなる、③姿勢を保持できない、④筋肉が固縮する(固まる)という4つの典型的症状があります。
この事故では、加害運転者は、右脚が固縮するという症状が既に出ていました。
しかも、事故当時、加害運転者は2本の杖がないと歩けないほど症状が悪化していました。

マニュアル車と違ってオートマ車は右足だけでペダル操作をします。
ですので、右足が固縮していたら、運転に非常に危険です。

民事の裁判では、この疾患がペダルの踏み間違えに影響したかどうかが大きな争点となりました。
そして、判決では、右脚の固縮が、ペダルの踏み間違えなどの危険回避行動に影響を与えた可能性は否定できないと明言されました。

医療文献でも、パーキンソンの症状と車の運転の危険性について、多くが語られています。
例えば、
① 埼玉医科大学神経内科
② 国立療養所静岡神経医療センター
③ 愛媛大学大学院医学系研究科神経内科
④ 岩手医科大学神経内科
などで出されている論文がその例です。

以上のような次第ですから、ぜひとも、政令の中で、パーキンソンの症状が現れる疾患についても、自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある疾患の中に入れてください。