講演|被害者参加制度の「暗黒時代」「とんでも時代」「通り雨時代」 2023年11月25日

公益社団法人かがわ被害者支援センター設立20周年記念講演として2023年11月25日、松永拓也氏とともに講演をいたしました。
松永氏は、ご自身の交通犯罪(東池袋暴走母子死亡事故)についてお辛い中、実体験をお話されました。
私は、主に、被害者参加制度が施行されてから15年を迎える節目にあたって同制度の歴史と現状について講演しました。講演要旨は以下のとおりです。

被害者参加制度は2008年12月1日に施行されましたが、その前日までは、被害者は暗黒の時代でした。
被害者といえども事前に裁判期日を教えてもらうことができず、仮に期日を知ることができたとしても社会的に注目を集める事件では整理券をもらい抽選に当たらなければ傍聴席にすら入ることができませんでした。
判決文ももらえず、刑事裁判で証拠として出された捜査報告書や実況見分調書なども一切、閲覧すらできませんでした。
傍聴席で一言、良く聞こえないからマイクのボリュームを上げてくださいと裁判長に向かってお願いしたら閉廷後に裁判官室に呼び出され、「おまえ達に聞かせるために裁判をしているわけではない」と怒られた遺族もいました。被害者は単なる「証拠品」に過ぎなかったのです(暗黒時代)。

そんな暗黒の時代が過ぎ去り、ようやく被害者参加制度が実施されたら、今度は、この制度を良く知らない「被害者支援に精通している」と豪語する弁護士から二次被害を受ける例が後を絶たなくなりました。
被害者はどうしても発言したいことだけを法廷で発言させ、すべては弁護士に任せなさいと指導し、被害者の口を封じ込めようとする弁護士が現れたのです。
この制度は、弁護士が発言するための制度ではありません。
被害者の「生の声」を裁判官や裁判員に直接、届けるための制度です。
ただ、法律を知らない被害者だけではなかなか上手く話すことができないので、それを脇からしっかりとサポートさせて頂くために被害者参加「弁護士」がいるのです。
弁護士が主人公になるかのような捉え方は甚だしい勘違いです(どんでも時代)。

今では、この制度の趣旨もそれなりに浸透し、被害者が直接、発言することが多くなりました(真っ黒な雲が過ぎ去り、暖かい陽光が差し始めた時代)。
ただ、そうは言っても、まだまだ無理解の法律家が多いのも現状です。
一つは、同制度について全く勉強していない一部の「生きた化石のような副検事」、二つには、交通事故案件で多いですが、民事訴訟におけるかなりの弁護士費用を目当てに、刑事裁判については無料で引き受けて手を抜く「無償弁護士」、三つには、検察官と喧嘩を始める「反権力被害者参加弁護士」の出現です(通り雨時代)。

副検事の不勉強は論外です。
手を抜くための無料ほど高い買い物はありません。
この制度は検察官と一定の緊張関係を保ちつつもあくまでも補完し合い協同することに本質があります。
検察官とは良好な関係を築くことが本質です。
あたかも検察を権力とみて、日頃から反権力を標榜する弁護士は、この制度に関わるべきではありません。

こういった三つの問題点は残されてはいますが、現在では、この制度は非常に良く使われており、被害者の権利回復に多いに役立っています。
なぜなら、この制度を利用することで、犯人はどんな人物なのか、なぜ家族が殺されたのか、家族の最後の様子はどうだったかなど、被害者が最も知りたいことについて、今までは叶わなかった検察官とは別の被害者自身の目線で確かめることができるようになったからです。
被害者参加裁判を経て事件に区切りをつけ、新たな生活の一歩を踏み出すことができるようになりました。

資料はこちら「被害者参加制度について」